「お母さんったら、私の心配なんてしなくてもいいのよ?今は仕事の方が楽しいし、結婚なんて……」

“まだ考えてないわよ”と続けようとしたところで、キッチンから飛び出してきたお母さんに両肩をガシリと掴まれる。

「お母……さん……?」

ニコリと菩薩のように微笑むその形相にそら恐ろしい物を感じて、私はゴクンとトーストを丸のみした。

……悪い予感ほどよく的中するものだ。

「お願い!!さくら!!かすみの代わりにお見合いして頂戴!!」

お母さんはそう叫ぶと、私の膝の上に突っ伏しておいおいと泣き出したのだった。


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取り乱したお母さんをなだめてよくよく話しを聞いてみれば、事態は私の思っていた以上に深刻なことになっていた。

話はかすみの結婚が決まるひと月に遡る。

父が取引先の上役から頼まれたというお見合い話を、お母さんがかすみに託したことが発端だった。