助手席に乗りこむと、古賀くんが運転する車は直ちに発進した。

走り出して間もなく風景が変わり始め、背後にあった病院が次第に遠くなっていく。

“今日、仕事はどうしたの?”

“私が入院している間に開催された専務就任パーティーはどうなったの?”

聞きたいことは沢山あったのに何一つとして尋ねることが出来ず、しばしの間沈黙が流れる。

「私はどこに……帰るの……?実家?かすみのところ?」

どこにだって行くわと自嘲気味に笑う。

どこだって同じだ。どこだって私の居場所などないのだから。

「……お前が帰る場所はひとつしかないだろ」

古賀くんはそう言うと、当然のようにカーナビの目的地を一緒に暮らしてきたマンションに指定した。

……あそこに帰るの?

「止めて!!」

嫌だ!!それだけは嫌!!

あのマンションにだけは帰りたくない。

「今すぐ止めないとここから飛び降りるわ!!」

窓枠に手をかけて脅すと、車は私が望む通り急停車した。