(あ……れ……)

目が覚めると頭上に知らない天井があって、一瞬戸惑ってしまう。

辺りを見回しても馴染みのある家具もなければ、シーツの肌触りだって違う。

私が着ているのも愛用のパジャマではなく、どことなく薬品くさい無地の寝間着だった。

しかし、違う風景の中にも同じものもあった。傍らに古賀くんの姿があることである。

「……起きたのか?」

古賀くんはひどく疲れた表情でパイプ椅子に座っていた。

私はここが病院だと認識すると同時にベッドから跳ね起きた。

「……赤ちゃん!!お腹の子供は!?」

……会社で気を失って、病院に運ばれたのだ。お腹の子供だって無事ではいられない。

「安心しろ。子供は最初からいなかったんだ」

古賀くんは淡々と事実を述べていった。

「吐き気はただの食あたり、倒れたのは過労だ。念のため精密検査して異常がなかったら週末までには退院できるそうだ」

「食……あたり……」

「お前、傷んでる食べ物でも食ったんじゃねーの?」

古賀くんは憎まれ口を叩くと、私が目覚めたことを告げるべくナースコールを押した。

(な……んだ……)

ただの食あたりだと吐き気の正体が分かると、数日間の緊張の糸がプツッと切れたような気がした。

じゃあ、ふたりして妊娠だと勘違いしたってこと……?

不謹慎だけど子供がいないと聞いて、安心している自分がいて複雑な思いである。