「この間からなんか様子がおかしいって思ってたんだ」
「何言ってるの?妊娠なんてあるわけないじゃない……」
バカバカしいと取り合わず一蹴すると、焦れた古賀くんに怒鳴りつけられる。
「いいから!!今から病院に行くぞ!!」
そう言って無理やり床から立ち上がらされたが、強引に腕を引き剥がす。
「仕事は?どうするの?専務になるんだから、突然休んだりしたら示しがつかないんじゃないの!?」
外せない会議があると言っていたのは自分ではないか。
大好物である仕事の話を盾にすると、古賀くんは悔しそうにチッと舌打ちした。
「いいか!!俺が帰るまで絶対に大人しくしてろ!!」
古賀くんはそう言い残すと、玄関の扉を乱暴にしめて出掛けて行った。
いってらっしゃいのキスもこの日ばかりはお休みだ。
(大人しくなんてするもんか……)
いくら古賀くんの頼みだからといって、会社をそうそう休んではいられない。
なにより、彼に指図を受ける謂れはない。
だって……赤の他人なのだから。