「おかしいですね……。やはり“古賀さくら”という名前の登録はないようです」

そう言うと眼鏡をかけた職員さんは、何度も何度も端末と申請書の間で視線を往復させた。

「本当に“古賀さくら”さんで、間違いありませんか?」

「はい、古賀さくらです……」

寝耳に水とはまさにこのことだ。

住民票を取りに来ただけなのに、もう15分も同じ問答を繰り返している。

細身のフレームの眼鏡をかけた神経質そうな職員さんは、不審人物でも見るかのように疑惑の目を向けてくる。

(おかしいな……)

このままではクレーマーとして区役所への出入りを禁止されてしまいそうだ。

「も、しかしたら……旧姓の“青山”で登録……されたままとか?」

苦し紛れにそう言うと、職員さんはどれどれと端末を再び操作し始めた。