妊娠に心当たりがあるかと聞かれたら、古賀くんが酔って帰ってきたあの日だろう。

避妊をおろそかにするほど迂闊ではないだろうが、なにしろ彼はあの日、尋常ではなく酔っていたから……。

(と、とにかく……早く確かめなきゃ……)

携帯で近所の産婦人科のある病院の場所を調べると、引き出しにしまってある保険証を探しだす。

「あった……」

ところが、見つかった保険証の氏名欄が旧姓のままになっているではないか。

(あちゃあ……)

めったにお医者さんにかからない健康優良児っぷりがこの時ばかりは裏目に出た。

結婚を機に氏名の書き換えが必要なことをすっかり忘れていたのだ。

(先にこっちからね……)

明日の朝一番に事務担当に確認しようと心に決める。

事実がはっきりするまでは、とにかく古賀くんに悟られないように細心の注意を払わなければならない。

子供がいたらこんなに嬉しいことはないが、その一方で別の衝動に駆られてしまう。

……専務就任が決まったということは、これ以上私と結婚している必要はないということに他ならない。

外聞があるからすぐには離婚されないだろうけど……心のどこかで妊娠が離婚を考え直す理由になればと思い始めている。

(私はずるい……)

傍にいられるのなら、生まれてもいない子供すら利用しようとしてしまう。なんてずる賢く、浅ましいのだろう。

自分で自分が嫌になってしまいそうだった。