ハチミツ味の君の嘘

君と出会ったのがいつ頃だったかなんて、しっかりとは覚えていない。


参加したライブにたまたま君がいて、
その歌い方が印象的で気になって声をかけた。




「連絡先教えてよ。」



その頃はまだ彼女と深い関係になるなんて思わなかった。

…だけど、今思えばこの時から少し惹かれていたのかもしれない。




自分の連絡帳に増えた「望月陽奈」の文字。



「昼と夜ごっちゃ混ぜだな。」



なんでそんなこと言ったのか分からない。
一種の照れ隠しだったのか、なんなのか。


「…うん。この名前あんまり好きじゃない。」

「そうなんだ。」

「うん。」

「…んー。俺は可愛いと思うけどな。」




俯いていた彼女が顔を上げる。

大きな目を見開いて、パチパチと長い睫毛が揺れる。




「何よ。」


そんな様子が可愛いと思った自分には気づかないふり。




「…あんまり、可愛いとか言われたことなかったから。」

「それは嘘でしょ?陽奈ちゃん普通に可愛いよ。」



耳が少し赤くなっていて、本当に慣れてないんだとわかった。



俺とは違う世界の子だな。




俺に寄ってくる女の子なんて肉食女子ばっかりで。


こんな純粋な女の子まだ居たんだなあ、ってレベルで久しぶりにあった。





「トモ。」



後ろから声をかけられて顔をそちらに向ける。


整った顔を少し崩して片手を上げて「ごめん。」と呟いた彼。



視線の先には俺の隣にいる彼女の姿。




「ああ、大丈夫。どうした?」

「…あのさ、」



言いにくそうに加瀬が口をもごつかせていると、次のバンドの曲が始まる。



「ちょっと外でよ。聞こえねえわ。」

「うん。…でもいいの?」

「うん。じゃあね、陽奈ちゃん。また後で。」



トンと頭に一瞬手を乗せてから、加瀬とともに会場をでる。
控え室に向かう途中の廊下でふと彼が立ち止まった。



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