「……は? ちょお待ち、今何て言うた?」
 練習スタジオに響く祐(たすく)の素っ頓狂な声。
 手にしていたギターはするりとその手から落ち、元から酷使していたストラップもその重さを支えきる事が出来ずに呆気なく鈍い音を立てて床へと落下する。
 祐がベースとして在籍するバンドが解散を告げられたのはこの時が初めてだった。
「なぁ……ちょお! 俺解散なんて聞いてへんのやけど」
 何の予兆も無く突然リーダーより告げられたバンドの解散。解散という内容の反面、どこかへらへらと余裕のあるリーダーの表情には怒りが込み上げた。
 勿論、これに憤慨していたのは祐だけでなく、その他メンバーもただぽかんと口を丸く開けたままリーダーに詰め寄る祐の背中を見つめていた。
「だからさ、今年の冬には俺パパになんのよ。就職しなきゃいけなくてさ」
 あっさりとリーダーの口から告げられる『出来ちゃった結婚』。これには祐ですら言葉を失わざるを得なかった。