「わかった」
(!?)
自分の声に驚いて目が覚めた。
「“わかった”って何だ?つか、ここどこ?」
目の前に広がるのは緑、緑、緑…
ふと、風が吹いた。土の香りもする。
(気持ちいい…)
そう思ったら、何もかもがどうでもよくなり思考を止めたーーー考えるのを止めたら、近くを散策したくなった。
立ち上がろうとして足に力を入れる。
「あれ?」
上手く力が入らない……
(そんなに長いこと寝ていたのか)
「…ん?」
何かが引っ掛かった。
(“寝ていた”?いつから?どうしてここで?)
自分は何か大事なことを忘れているーーー唐突にそんな考えが浮かぶ。
「……!!」
「え?」
誰かに呼ばれた気がして振り返る。
そこには、真っ赤な花が一輪咲いていた。
今まで一度も見たことのない花だ。
不意に、視界がぼやけ温かいものが頬をつたうーーーそれが涙であると気づくのに2、3秒かかった。
(自分は…泣いているのか?)
訳がわからなかった。
確かにその花を見たとき一瞬懐かしさがよぎった。
でも、それだけである。
それ以上の感情は全く湧かなかった。
それなのに涙が止まらない。次から次へと溢れてくる。
(自分はどうなってしまったのだろうーーー)
そんなことを考えていると、また声が聞こえた。
「…い!けい!!蛍!!!」
(ーーーあぁ、そうか)
声が発する単語を理解した瞬間全てを思い出した。
(そうだ。“蛍”は俺の名前だ。それに、あの花はーーー)
そして、俺は呟いた。
「わかった」
               ーENDー