「あら、さっちゃん?」



「…誰ですか?」




仕事帰りの私を呼び止めて


私の名前である さつき を省略して親しげに近寄ってくるこの彼…いや、彼女…?


正真正銘、オネェである。


どこからどう見てもオネェである。



今じゃ少し、いや大分浮いてしまう厚塗りの化粧。


大柄な体に似合わない華奢で綺麗な服。


足元を見ると…ヒールが可哀想に思えてくる。




私の知り合いには思い出す限り、オネェはいない。



誰だ…?





「あら、私よ!高校生のとき幼なじみだった、はるき!はるくんって呼んでたじゃな〜い!」



「は、はるくんんん!?」




はるくんと言えば



爽やか、真面目、誠実、優しい…


THE☆王子様キャラのはずだ。


いつもクラスではみんなの中心にいて、みんなを取りまとめたり、時には場を賑わせてくれる…全てが完璧な私の幼なじみ



…だったはずだ…





「で、でも、私の知ってるはるくんは、そのようなご趣味はなかったと思うのですが…」



「あー…高校生のときは恥ずかしくてあまり知られていなかったわね…それでも最近よ?こんな格好で街を歩いてるのは!!」


「そ、そうなんだ…」



本当にはるくんなんだ…


そういえば確かに声も似ているし

元々の顔立ち…鼻筋とかもはるくんそっくりだ。



「ここじゃなんだし、どこかお店でも入りましょ!この後空いてるかしら?」



「まぁ…うん…」




この後は撮り溜めていたドラマの録画を見ながら、一人でお酒を飲んでパーティーするはずだけど…!


昨日買っておいた私の大好物、さきいかをつまみにたのしむはずだったけど…!



旧友(オネェ)との久しぶりの再会をぶち壊すほど、図太い性格ではない…






「何か食べたいものでもある?」





でもそうだな。
せっかくどこか行くなら。


うん、あそこしかない。