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それから半年もたたないうちに、真空は入院した。


大学入学を機に真空の家でおばさんおじさんと同居する形で真空と一緒に生活することになった私は、大学に通いながらも家事と真空のお見舞い、両方を熟していた。それに加えて、入院当日に家を飛び出したまま見つからない真雪ちゃんの捜索。


まだ若いから、大丈夫だと思っていた。私がしっかりしないと、真空も、お父さんもお母さんもおじさんもおばさんも安心できないと思っていた。


真空が入院して一ヶ月が経った頃、お見舞いに行って顔を見て安心したのか、私は真空の病室でとうとう倒れた。


ふと目を覚ますと目の前に真空の顔があって、その横にお母さんが立っているのが見えた。はっとして起き上がろうとした私を、真空が押し留める。厳しい表情の真空に、私は自分が何をしたのか思い出した。


「ごめんなさい……っ」

「ねえ、雫」


身体にかかっていた布団を引っ張り上げて、意図的に視界を黒に染める。布団越しに落ちてきた真空の声は、穏やかで。そのまま動かずにいると、少し出た私の手を、真空の手が撫でた。


「そんなに気負わないでよ、ねえ」


ぶわっと、涙が溢れてくる。だって、私が頑張らなきゃ。みんなに心配させないために、真空がいなくなっても大丈夫だって分かってもらわなきゃ。


「だ、って……真空が心配して成仏できなくなっちゃう、からっ」

「ふっ! そんな心配?」

「そんな、じゃないよ、」


私が、私が。……私は、真空の奥さん、なんだから。


「あのね雫、ただ一人でがむしゃらになって突っ走らないで。もっと周りを見て、もっと寄りかかっていいんだよ。父さんだって母さんだって、おばさんもおじさんもお姉さんもお兄さんも、冬馬や宮坂さんだっている。雫がそうやって一人で頑張っちゃう方が、俺は何よりも心配なんだ」


だってと、涙に濡れた声が自分の口から滑り落ちる。ばっと布団を剥いで、ぎゅうっと唇を噛みしめると漏れそうになる嗚咽を必死で噛み殺した。


「頑張らなくていいよ、雫。出来ないことはできないって、辛いことは辛いって、苦しいことは苦しいって言っていいんだよ。……俺にはそう言うくせに、雫がそれをやってないんだもん。ねえ雫、全部話して。言いたいこと、思ってること、全部ぜんぶ吐き出して」


お願いだから、と懇願する真空に抱きついて、震える唇を噛み締める。ずっと我慢していた言葉の蓋がこじ開けられて、噛み締めたはずの唇の端から言葉がぼろぼろと零れ落ちていく。