気まぐれな君は



けれど。


「私、別れる気はないから」

「……俺だって、ちゃんと認めてもらうつもりだよ」


言外に、無理やりはダメだよと言われている気がした。


その言葉を甘んじて受けとめて、真空にそっと身を寄せる。気付いた真空が私の頭を撫でてくれるのに任せて瞼を閉じた。撫で方が容赦ないから、髪の毛はぐしゃぐしゃになるのだけれど、真空に撫でられるのは好きだった。


暫くして迎えに来たお母さんの車に二人で乗り込んで、自宅に帰る。玄関には確かに靴が二足多くて、二人でリビングに連れだって入るとお父さんたちが緊張した面持ちで私たちを見ていた。


「おかえり、雫。いらっしゃい」

「お邪魔します」

「とにかく今お茶を淹れるから、話はそれからね」


あるでしょう、とお母さんに言われて、真白くんと二人で頷いた。


お母さんとおばさんが並んでお茶を淹れているのを見ながら、いつの間に仲良くなったのかなんてちょっと的外れなことを考える。五人掛けのテーブルに無理やり席を作って、お父さん、お母さん、私、真空、おばさん、おじさん、とコの字型に座った。無言でお茶を飲んで、一つ溜め息を零す。リビングの異様な雰囲気に、猫たちが逃げていくのが分かった。


「さて、と」


お母さんが言葉を発すると、雰囲気が張り詰めていくのが分かる。隣の真空に手を握られて視線を向けると、そっと頷かれた。その仕草に背を押され、渡されていた、私たちの分の記入を終えた婚姻届をテーブルの上に出す。


「雫のお父さん、お母さん。改めてお願いがあります。雫さんを僕に下さい」

「お父さんお母さん、それからおじさん、おばさん。私と真空の結婚を、認めてくれませんか」


真空の言葉を後押しするために、四人を見回しながらそう言った。


お父さんたち四人が、お互いに顔を見合わせあって苦笑するのが分かる。どういうことなのか分からずに顔を顰めていると、代表なのかお父さんが私たちを見て口を開いた。


「答えは一年前と変わらないよ。お前たちの好きにしなさい、ただし責任は持つこと。……それから、真空くん。雫をよろしくお願いします」

「おじさん……」

「それと、白川家からも少しだけ。雫ちゃん、真空はいつまで生きていられるか分からない。それでもいいんだよね?」

「当たり前です!」