いつの間に取りに行っていたのか、真空の方は全て書き込みの済んでいた婚姻届を渡されて。怖いなんて思いながら、真空が私のことを想ってくれていることを改めて実感する。真空の胸ですぐに呼吸を整えると、私はバッグからボールペンを取り出した。
一文字一文字、丁寧に正確に。未成年だから、親の許可も必要だ。今日帰ったときに、また改めて話さないと。
記入を終えたそれを、封筒に戻す。真空を向いた瞬間、触れ合った唇。どちらからともなく立ち上がると、私たちは教室の入り口に並んだ。
「ありがとう、ございました」
「ありがとうございました」
なんとなく口にすると、真空が隣で同じ言葉を零した。顔を見合わせて笑いながら、昇降口へと向かう。体力の落ちた真空に合わせて、ゆっくり。と、電話が入ったのに気付いて踊り場で立ち止まると電話を取った。
『もしもし、雫? そこに真白くんいるよね?』
「お母さん。一緒だけど……」
『まだ学校? お母さん今から迎えに行くから。……真白くんに、ご両親家にいますって伝えてくれる?』
「え?」
隣の真白くんを見上げると、声が聞こえたのか驚いた表情をしていた。
二十分くらいで着くから待ってて、という声を最後にして電話が切れる。切れた電話を眺めて、それから真空と視線を合わせた。二人で同時に首を傾げたため、思わず小さく吹き出してしまう。とりあえず降りよう、と真空を促して、私たち二人は昇降口へと向かった。
「……もう、父さんと母さんは雫の家にいるの? 面識あったっけ?」
「お母さんとおばさんは、確か……? ほら、真雪ちゃん」
「ああそっか……いやでもどこからどうしたら家に行くことになってるの」
「多分、お母さんのせいだね」
フレンドリーなお母さんのことだ。しかも、一年前に結婚の約束をしていたことも知っている。大学も一緒だと知っているし、きっと気を利かせてくれたのだろう。これで真空が今日言ってくれなかったらどうするつもりだったのか。それだけ信頼されていることを喜ぶべきなのか。
分からないが、分からないことは置いておくとして、私は真空の手をそっと握った。少し冷たい真空が私の手を握り返してくれる。
また、お父さんやお母さんが許してくれるかどうか、保証はない。状況はまた変わっているし、真空の病状については詳しく話しているから、悪化している現状に反対される可能性だってある。


