「卒業できるなんて思ってなかったんだ、本当に。高校入学だって、最初は諦めてたくらい。でも、諦めなくてよかった。俺、本当にさ、雫に会うためにこの学校に来たんじゃないかって割と本気で思ってる」
ちらり、と隣の真空に視線を向ける。前を向いたままの真空と、視線が交わることはない。
「きっと、運命なんだよ。ぼくと雫は。こんなだったら、身体が弱かったことだって意味があったのかなって思うんだ」
ふっと笑った真空が、雫を残して逝かないといけないのは嫌だけどね、とおどけたように言った。
その表情に、悲しさは見えない。それでも、苦しんでいることを、私は知っている。だからいつも、私はその手をそっと握る。大丈夫なんて言えないから、私が傍にいるって分かってほしくて。
漸く私を見てくれた真空が、真っ直ぐに私を見つめてきた。
「俺と、結婚してください」
つうっと涙が頬を伝う。真空の伸ばした手が、私の涙を一粒掬う。
「私を、真空のお嫁さんにして」
あとどれだけ一緒にいられるのか分からない。もしかしたら明日にも真空はいなくなってしまうかもしれない。
一年前の真空の誕生日に、結婚してほしいとは言われていた。でも、この一年で確実に、真空の身体は弱ってきている。だから、もしかしたら言ってくれないんじゃないかと思っていた。でも、ちゃんと言ってくれたから。
「短くてもいい。真空が今生きてるのすら奇跡だってことは、分かってる。だから、怖がらないで。すぐに死んじゃうのに、結婚してバツつけちゃうなんて考えないで。私は、ちゃんと、『白川雫』になりたい」
君以上に愛せるひとなんて、きっともういない。
「……雫には、何でもお見通しだ」
笑いながら、真空が二つ、リングを取り出した。
真空が私の手を取って、そっと指にはめてくれる。もう片方を受け取ると、私も真空の指にそっと通す。
「俺の誕生日に、出しに行こうか。婚姻届。この後、雫の家に行ってもいい? 父さんと母さんと一緒に」
こくりと頷いて、その胸に飛び込んだ。幸せすぎて、声が出ない。世間一般からしたらいつ死ぬか分からない旦那は悲しい結婚なのかもしれないけれど、私たちからしたら、そもそも結婚できること自体がもう奇跡だから。


