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一年後。
無事に卒業した私たちは、教室で二人並んで席に座っていた。
もう、卒業生たちは軒並み帰った校舎内。私たち六人は、明日改めて集まろうということになり、今日は早々に解散していた。
三月と言えど、日が落ちるのはまだ早い。もうとっくに暗くなった窓の外、私たちがいるのは一年生の教室。私と真空が出逢った時の、あの教卓前の二つの席だった。
在校生は午前中は卒業式に参加し、午後は各自部活に散らばる。一年E組の教室は部活では使っていないらしく、私たちは何も言わずに二人揃って教室に入っていた。
思えば、ここから全部始まった。
三年なんて、長いようであっという間だ。それでも、真空の命の長さを考えれば、とても長い時間。
何度も倒れたり入院したりしながら、出席日数もぎりぎりながらに真空は卒業することができた。私も難なく卒業して、今は二人揃って短大に進学が決まっている。真空を見ていて、食事制限の大変さを知った私は、管理栄養士の資格を取るために栄養系の学部に進学することを決めていた。真空は、学生の延長線。本当は家で大人しく療養するという選択肢もあったのだけれど、それは嫌だと真空が言った。
最期まで、ちゃんと生きたいと。どうせなら、色んなことを学んでみたいと。
それでも一人で別の大学というのは不安だったから、私と同じ大学に行くことになったのだ。柳くんは、看護師の道を選んだ。看護専門学校に行くことが決定していて、四月から一人暮らしを始めるらしい。若葉は服飾系の短大、茉莉は就職、絵里は文学部と、それぞれ進路は別々だ。
「色々あったね」
真空の言葉に、そっと頷く。視線は前に向けたまま、隣から零れ落ちてくる言葉に耳を傾ける。
「俺、雫と出逢えてよかった」
「……私も、真空と出逢えてよかった」
「一生、誰も愛せずに終わるんだって思ってたんだ。出来れば逢ってみたい人だっていたけど、きっと無理なんだって思ってた。……でも、雫が全部叶えてくれた。雫を愛せたし、逢いたい人にだって逢えた。欲を言えば、もう一人、逢いたい人がいるから……今度、逢わせてほしいんだ」
「逢いたい、ひと?」
「そう、逢いたいひと」
分かった、と深く訊くことはせずに頷いた。こういう時、真空は詳しくは話してくれないことを、私は知っている。


