気まぐれな君は



「大丈夫お父さんのことは気にしなくて」

「というか都築家での俺の呼び方真白くんなの?」

「私が最初にそう呼んでたから」

「家で俺の話してたんだ……」

「というか最近家来るし、まず私たちが仲良くなったきっかけを思い出して」

「あ、そういえばホームページ手伝ってた」


思い出しましたか。


お父さんそっちのけで、後部座席で真空と小声で言葉を交わす。ミラー越しにお父さんが気にしているのは分かるけれど、こっちは気にしない。お父さんはホームなんだから、アウェーの真空を気遣うのは当たり前だ。


家に着くと、真空がお父さんにきっちりお礼を言っていた。私も一言、ありがとうとだけ言うと、お父さんが車庫に車を仕舞うのを待たずに真空を連れて家の中に入る。お邪魔します、という真空と私のただいまの声に、奥からお母さんが出て来た。


「おかえり雫、真白くんはいらっしゃい」

「お昼、ありがとうございます!」

「いーえ。雫は何度かお邪魔させてもらってるみたいだし、これくらいはお安い御用! 減塩って言われたから気を付けはしたけど、おばさん加減が分からないから悪いことあったらごめんね」

「いえ、わざわざありがとうございます!」


リビングに向かうと、もうお昼ご飯は用意されていた。


お父さんが戻ってきて、定位置に座る。お母さんがその隣、私がお母さんの向かいに座ると、真空がお父さんの向かいに腰を下ろした。


「改めまして、雫さんとお付き合いさせていただいている白川真空です。呼び方は真白のままでいいです。よろしくお願いします」

「なによー改まって! 寧ろ雫をよろしくねー!」

「ちょっとお母さん!」

「……まあ、とにかく食べようじゃないか」


いたたまれなくなったお父さんが、そう声を上げる。冷めちゃうしね、とそれに乗っかったお母さんがお父さんの心情を察したのか苦笑した。


いただきます、と手を合わせて、野菜に手を付ける。白いご飯とコンソメスープ、レタスとミニトマトにドレッシングはかかっていない。それから甘い卵焼きに、だし巻き卵だと塩を使ってしまうからか、と理由を察した。


一口食べて、おいしいですと笑顔を向けた真空にお母さんがほっとするのが分かる。主にお母さんと私、真空で話をしながら食べ切ると、食後のお茶を持ってきたお母さんが席に着くのを待って真空が話を切り出した。