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三月の真空の誕生日にはもう、春休みに入っていた。


「え、映画?」

『うん。それなら俺も負担じゃないしさ。それにほら、あの映画公開日じゃん! その後、雫の家行ってもいい?』

「あーそうだった! それは行かなければだね! そしたら、お母さんに言っておくよ」


じゃあそういうことで、と電話の切れたスマホを眺めて、考えても仕方ないことに気付きベッドの上に放り投げる。その誕生日は明日、手元のレターセットとにらめっこしながら、私は明日の服はどうしようかと考えた。


付き合い始めてから早三ヶ月。あの告白の後、やっぱり体調の悪化してしまった真空はそれから五日ほどベッド上安静を強いられて、もう嫌だ、と珍しく弱音を零していた。しかしその後は順調に経過し、冬休みに入る一週間ほど前にクラスに復帰して。そこで、私たちが付き合っていることはクラスメートどころか学年周知の事実となった。なんせ、真空の対応が分かりやすいのだ。


先に報告していた柳くんや若葉たちは祝ってくれて、学年中も受け入れてくれたため、隠すことなく私たちは堂々と一緒にいることができている。その方が体調の変化にも気付きやすいから、私としては願ったりかなったりな状況だった。


そう言ったら、真空に少し拗ねられたけれど。勿論、ちゃんと一緒にいたいとも思っている。


そして私が家で口を滑らせたことにより、お姉ちゃんにまずばれてそのままなし崩しにお母さんたちにもばれた。隠すことでもなかったから、真空にはばれたことを伝えてある。元々俺から言うつもりだった、という真空は、きっと今回その約束を果たすつもりで来たのだろう。お母さんたちは、身体が弱くて入退院を繰り返していることは知っているが、詳しいことは知らない。


真空のご両親には真空がベッド上安静になった時点で受け入れられているし、元々色々な話をしてはいたため、思ったよりもすんなりと受け入れられていた。


考えてみれば、デートなんて初めてかもしれない。どこかに行く、というのは。真空の身体のこともあるし、私も真空も読書が好きで外で積極的に遊ぶタイプではないから、お家デートくらいしかしていなかった。


通学路以外のお出かけは初めてだ。そう考えると、なんだか段々恥ずかしくなってくる。ふるふると首を振って余計な考えを追い出すと、私は止まっていた手を動かし始めた。


手紙を書くのはいつ振りだろう。この年になると、こういうことなんてほとんどしない。でも、形に残しておきたいと思ったから、手紙を書くことにした。