「一応確認するけど、彼女さん、でいいのかな?」

「……っ、はい」


こくりと頷いて、看護師さんの言葉を肯定する。彼女、というか、その先まで行く勢いだったけれど、そこまで言う必要は多分ないと思う。


名札を確認すると、羽村、という名前が書いてあって、そういえば真空が羽村さんと呼んでいたことを思い出した。私の視線に気付いたのか、羽村です、と名乗ってくれた彼女に私も続きですと名乗ると、くすり、と小さな笑いが返ってきた。


「実はね、白川くんのお見舞いにいつも来るから、てっきり彼女だと思ってたの。それで私たち看護師が話するのが嫌だったみたいで、あまり貴方のことは私たちに見せたくなかったみたい。特に、一緒にいるところ」


その言葉に、九月にお見舞いに行った時のことを思い出した。


コスモスを見て、すぐに病室に戻ってしまったのは、そういう意味があったのか。


「そんな白川くんが、今日は協力してくださいって頼みに来るから、やっとくっつくのかあってちょっと楽しみにしてたの。さっきは驚いたでしょう、ごめんなさい」

「いえ、……真白、真空が頼んだんですか?」

「そうです。理由は聞かないで、連れて行ってくれないかって。まあ理由なんて聞かなくても分かったけど、一応先生にも許可取って。またしばらく安静かな」

「……すみません……」

「今回は白川くんが言い出したことだし、気にしなくていいと思うよ」


当たり前だけれどやっぱり無理していたのか、と気付いて、眉を下げる。優しく笑った羽村さんが、でもね、と少し口調を変えた。


「いつもこうはいかないことは、ちゃんと分かってほしいの。それから……白川くん、あまり弱音とか吐かないでしょう? 都築さんが、支えになってあげて。それで、都築さんが困ったことがあったら、私たち看護師に相談してくれていいからね」


分かりましたと頷くと、羽村さんは立ち上がって、気を付けて帰ってね、と送ってくれた。一人で歩きながら、小指の指輪に触れる。冷たいそれが告白は現実のものだと教えてくれて、また溢れそうになる涙をぐっと堪えた。


私と真空は、きっとみんなみたいな普通はできない。でも、だったら、私たちの普通を探していきたい。


絶対に、真空の支えになると心に決めて。最期のその瞬間まで一緒に笑い合っていることを、冬の澄んで高く感じる空に誓った。