「……真空くん」

「まーそーら」

「……真空」


くぐもった声で名前を呼ぶと、訂正が入った。大人しく、呼び捨てにするとなあにと返事が返ってくる。どうしてこんなにも余裕なんだろう、私は全然余裕がないのに。抗議するつもりで顔を上げると、顔を真っ赤に染めた真白くんにきょとんとしてしまった。


「……胸が苦しい……」

「えっ発作!?」

「いや違う……いやそうなのかな……雫、好き」

「……真白くん、一回落ち着こう?」


急に胸を押さえ始めた真白くんに我に返ると、唐突に告白される。嬉しくて恥ずかしいんだけど、それ以上に体調が心配になって。横になった真白くんの胸元に見つけたチェーンに首を傾げると、気付いた真白くんがそれを手繰り寄せた。


私にくれた指輪と、お揃いのものだ。流石に指には通せないから、チェーンに通してネックレス代わりにしているらしい。そこに夏祭りに買ったミサンガも結ばれていることに気付いて、懐かしくなって手を伸ばした。


「わ、っ」

「……雫、積極的だね」

「ち、違います! だって懐かしくて!」


弁解をして、真白くんから素早く離れる。今度こそ横になった真白くんに布団をかぶせると、そっと真白くんの顔色を窺った。少し長い間外にいたからか、その顔色はあまりいいとは言えない。もう少し一緒にいたいけれど、無理はしてほしくない私は、荷物を持つと真白くん、と声を掛けた。


「……呼び方」

「あ、っと……真空。今日は私、帰るよ?」

「いてくれないの?」

「私といたら、多分、私の心臓も持たないし、真空の心臓がフル稼働になると、思うんだけど、どうだろう」

「……否定はできない、かな」


また来るから、と付け足すと、渋々と言ったように真空は頷いた。


距離感が分からなくて困りながら、恐る恐る「また明日?」と言った私に真空が笑顔になる。伸ばされた手をそっと握ると、私は後ろ髪を引かれながらも病室から出て、一つ大きな溜め息を吐いた。


「幸せが逃げますよ」


と、すぐ近くから声がして驚いて顔を上げる。一緒に外に来てくれた看護師さんだ。少しいいですか、と言われて頷くと、ちょっと彼の様子見てきますねとカーテンの向こう側に消えた看護師さんを待つ。一言二言、会話が聞こえて、行きましょうかと促された私はデイルームに来た。