「最期まで一緒にいさせて。私を傍にいさせて。私は、真白くんと最期まで一緒に、生きたい」


それは、幼稚でどうしようもない程にバカみたいに単純な考えなのかもしれない。現実はそう簡単ではないと、お父さんやお母さんに怒られるかもしれない。


でも、それでも真白くんが好きだと思った。最期まで一緒にいたかった。残された時間が限られているなら、出来る限りの時間を一緒に過ごしたかった。


どうしようもないくらいに、真白くんが好きだ。


「ごめんね、都築さん」


こんな身体で、好きになって。


「ありがとう」


こんな身体でも、好きになってくれて。


ごめんねに首を左右に振って、ありがとうに首を上下に振って。忙しい私に真白くんが笑うのを、安心しながら眺めて。


徐に左手の小指に通された指輪に、私は一度引っ込んだ涙をまた流しながら、車椅子に座る真白くんに正面から抱きついた。


「……あったかいね」


耳元で落とされた言葉に、安心が込められていることに気付いて、ぎゅうぎゅうと真白くんを抱き締める。分け合う体温は、冬の寒さのお陰で貴重なものになっている。暫くそうして抱き合っていると、後ろから控えめに名前を呼ばれて、慌てて真白くんから離れた私に小さく真白くんが笑った。


「わ、笑わないで……」

「ごめんごめん、……し、ずくちゃん」

「……雫で、いいよ」


にやにやと私たちを眺める看護師さんが、行きますよ、と真白くんの車椅子を押し始める。顔を赤く染めたまま、行きと同じようにその後を着いて歩く私を、病棟に戻るなり看護師さんたちの歓声が迎えた。


「白川くんおめでとうー!」

「よかったね、やっと名実ともに彼女になったんだね!」

「初々しくて可愛いー!」

「うるさいですやめてください!」


わらわらと真白くんを取り囲む看護師さんたちは、どうやら事情を知っていたらし
い。何とか逃げ出して病室に戻ると、風、と溜め息を吐いた真白くんが気の抜けた笑顔を見せてきた。


「……しずく」

「……なあに、真白くん」

「真空、って、呼んで」

「……真空、」


恥ずかしくなってベッドに突っ伏すと、真白くんに頭を撫でられる。頬に当たる指輪の冷たさに、また恥ずかしさで撃沈した。