気まぐれな君は



頬に当てた手はそのまま、もう片方の手が私の片手を握る。瞬きを繰り返して、私は真白くんの言葉を必死に飲み込んで。


付き合って、という言葉を理解した瞬間、ぶわっと溢れてきた涙を零しながら、何度もなんども頷いた。


付き合うことって、どういうことなのかよく分からなかった。今でも分かっているかと訊かれると、首を傾げたくなってしまう。それでも、真白くんの真剣な瞳に、真剣な声に、分からなくていいのかもしれないと思った。真白くんと二人で見つけていけばいいのかもしれないと。


「わ、私も、好き……っ」


涙で震える声を必死で抑えながら、ずっと押し込めていた想いを吐き出した。ぽろぽろと零れる涙を、真白くんがそっと拭ってくれる。困ったような真白くんが、泣かないで、と笑うから。自由な方の手でぐいぐいと涙を拭うと、真白くんにその手を止められた。


「ダメ、赤くなっちゃう。……ねえ、都築さん」

「ま、真白くん」

「俺はいつか絶対に、きっと都築さんより先に死ぬよ。それはもう最初から分かってたことだし、だから好きだって言わないって思ってたけど、都築さんが受け入れてくれるから。だからね、最期まで、笑ってたいんだ。母さんが言ってたみたいに、俺の名前みたいに、途中で泣いても弱音吐いてもいいから、最期は笑っていたい」


今、すぐに都築さんに言うのは、もしかしたら間違ってるのかもしれないけど。


「俺と一緒に、泣いて、悩んで、苦しんで、それで、笑って。都築さんの笑顔を見せて。最期まで、一緒に、生きて欲しい」


ねえ、それってさ、真白くん。


「プロポーズみたい、だよ……っ」


泣き笑いの表情で真白くんを見ると、だって、と真白くんが屈託なく笑った。


「そのつもり、だもん」


早いよ、ねえ、真白くん。付き合ったと思ったら、プロポーズなんて、ついていけないよ、……でも。


嬉しいと思った。一緒にいたいと思った。


そしてそれだけ、真白くんの時間が短いんだということに気付かされた。


気付いてしまったことで出て来た違う意味の涙に、真白くんが気付く。ごめん、と謝った真白くんに全力で首を振って否定した。


「謝ら、ないでよ」


気付いていなかっただけで、自分の中で思ったよりも真白くんへの気持ちが育っていたことに。漸く気付いて、だから、謝らないでほしい。