やっぱり、なんて言いながら未だにどこに行くか教えてくれない真白くんの後を追う。病院をぐるっと回って、裏手に出ると入院病棟から見える景色が違う角度で広がっている。
「羽村さん」
「……ちょっとだけね。十分したら迎えに来ます」
「ごめんなさい、お願いします」
きょろきょろと当たりを見回していると、真白くんと看護師さんが少ないやり取りをして看護師さんがその場を立ち去っていく。一人首を傾げると、真白くんに都築さん、と名前を呼ばれた。
「もうちょっと、車椅子押してもらってもいい?」
「え、うん、……どこまで?」
「あと少し前に出せば見えるから」
「見える?」
ほら、と一点を示されて視線を向けると、視界に飛び込んできた鮮やかな赤と白に思わず息を呑んだ。
「……椿?」
「うん、そう。ここだけなんだけど、この時期咲いてるんだ」
濃いピンクと真っ白な二つの色が、交互に三本ずつ。綺麗、と思わず零した私に、真白くんが小さく笑う。都築さんに見せたくて、と言ってくれた言葉がコスモスの時と重なって、車椅子のグリップを握る手に力を込めた。
「ねえ、都築さん」
なあに、と応えると、真白くんに服の裾を引っ張られる。隣に来てよ、と言われて素直に隣にしゃがむと、近くなった距離に恥ずかしくなって逃げようとした。
その瞬間、腕を掴まれた私は身動きが取れなくなった。
「好きだよ」
前振りも何もない。唐突に落とされた言葉は、でも冗談とは思えないほどに真剣で。
言われた言葉が信じられずに、瞬きを繰り返す。そっと私の頬に伸ばされた真白くんの指が酷く冷たくて、びくりと肩を揺らした。
「本当は、全部隠し通して逝くつもりだった。そう遠くない未来にいなくなる俺に縛られて欲しくなかった。でも、無理だった。俺がいないから当たり前なのに、冬馬と話してるの聞いて、ちょっと妬いた」
え、と漏れ出た声は音になっているのか。
「いつからか分からないけど、ずっと都築さんが好きだった。でも俺はこんなだし、ずっと一緒にいようなんて約束、出来ない。それでも、もし都築さんが少しでも俺のこと考えてくれるんだとしたら、……付き合って、くれませんか」


