気まぐれな君は



「えっと、都築さんですよね。いつも白川くんに話は聞いてますよー」

「ちょっと羽村さん!」


くすくすと笑う看護師さんに、真白くんが慌てて声を上げた。いまいち状況の理解できない私の頭には確実にクエスチョンマークが浮かんでいる。


どういうことだろう。


何の説明もしてくれないまま、何事もなく看護師さんの押す車椅子に収まって病室を出て来た真白くんが、じゃあ行こうか、と私に声を掛けた。


「……どこへ? というか大丈夫なの?」

「うん、平気ー。先生には許可取ったから!」


で、結局何処へ。


分からないまま、真白くんは勿論看護師さんも教えてくれないので、二、三歩後ろをてこてこと着いていく。エレベーターに乗ったとき、真白くんが随分着込んでいることに気付いて、もしかして外へ行くのかと驚いた。


もう寒いっていうのに、大丈夫なのだろうか。無理しないと言っていたあの決意はどこに。いやでも先生から許可が下りているということは無理ではないのか。


「ねえ真白くん、」

「都築さん」


しいっと、真白くんが人差し指を立てて唇に当てる。くすくすと後ろで笑う看護師さんに反応することも出来ずに、私はぱっと顔を赤く染めた。


思ったよりも近かった、距離。まだエレベーターの中で、お見舞いに慣れてしまったせいなのかおかげなのか、無理をしなくても話せるように少し身を寄せるのが癖になっていた。思わず見とれてしまいそうになる視線を必死で彼から引っぺがして、ドアを見て深呼吸する。


今日の真白くんは、どこかおかしい。


体調が悪い、のではなくて。こうして外に出ているのだからそれはないだろうし、見たところも問題はない。でも、何か違う。何が違うんだろうと考えてみるけど、私にはよく分からない。ただ、上機嫌で何かを楽しみにしていることだけは分かった。


エレベーターを出ると、エントランスホールを抜けて外へと出る。ぴゅうっと吹き付けてきた風の冷たさに、真白くんが顔を顰めているのに当たり前だと返した。


「もう冬だねー」

「そりゃあ十二月だしね」

「雪降るかな」

「降らないって分かって言ってるでしょ」


この辺り、雪が降るには年明けだ。十二月は降らない。