気まぐれな君は



「はい、今回はこれね」

「わーいありがとう! ほんとやることなくて暇なんだよねえ」

「まだ歩く許可は下りてないの?」

「うーん、散歩はまだ。トイレくらいしか行かせてもらってない。あーシャワー浴びたいお風呂入りたい」

「そっか、それも負担かかるからダメなんだっけ」

「そうだよ。ご飯食べるのも一仕事になるんだよ」


ダメなことばっかりなんだ、と言いながら、前回持ってきた分を回収する。何度かお見舞いに来ているせいか、少しずつ知識ではなく実感として「していいこと・いけないこと」の区別がつくようになってきていた。


心臓が悪いから、心臓に負担を掛けないようにすること。歩くことは勿論、お風呂やシャワー、食事も負担になること。トイレはまだ歩かせてもらっているけれど、悪化したらそれも禁止になるということ。


流石にトイレくらいは自分で行きたいから、ちゃんと大人しくするようにしてると笑った真白くんは、ちょっと嫌そうな顔をしていた。


私でもそれは嫌だな、と思ったし、無理もしてほしくないから、基本的に外に誘うことはない。春夏秋ならまだしも、冬になっては外も寒いから車椅子で散歩、というのも中々難しいし。せめてもの気分転換になれば、と思って、真白くんの好きそうな小説を選んで持ってくる。


と思っていたのだが、今日の真白くんはどこかそわそわとしていた。


「そういえば、おばさんは?」

「今日は夕方からくるって。父さんと一緒だって言ってたから」

「柳くんは?」

「今日は来ないって言ってたよ」

「……そっか」


どうしたんだろう、と思いながら真白くんの様子を観察する。特に体調が悪いわけではないみたいだけれど、看護師さんに伝えた方がいいだろうか。


帰り際にでも伝えておこう、と思いながらスマホの画像フォルダを漁る。うちの猫たちの写真を見せようと思って探していると、カーテンの向こうから看護師さんの声が聞こえてきた。


「ごめんね、お待たせしました」

「いーえっ! 待ってました!」

「……ん?」


車椅子を持ってきた看護師さんと、楽しそうな顔をする真白くん。真白くんは言ってなかったけど、検査かなと思って外に出ると、看護師さんに呼び止められて足を止めた。