目の前で倒れられたとき、とても怖かった。もう目を開けてくれなかったらどうしようと思った。それでもあの翌日の病室で、名前を呼んでくれた君に酷く安心した。君の環境が複雑だということを知って、それでも私は正直そんなことどうだってよかった。


だって、ありのままの君が好きだから。


明るい君も、沈んでいる君も、笑っている君も、泣いている君も、病気でも環境が複雑でも、そういうの全部ひっくるめて、私が好きになった君だから。


「……ねえ、真空?」


ぽろぽろと涙を零す私を、お母さんの肩越しに真白くんが見てくる。その瞳をじっと見返して、私からは絶対に逸らさないと心に決める。


「私はね、真空が私たちの子供でよかったってずっと思ってる。知ってる? 真空の名前、私たちがつけたってこと」


雨が降ってもいつかは蒼を覗かせてくれる空みたいに、どれだけ泣いても悩んでもいいから、最後は笑ってくれる子になりますように、って。


「だから、いっぱい泣いて、いっぱい悩んで、いっぱい苦しんでいいの。それでいつか、最期の瞬間だけだっていいから、生まれてよかったって思って笑ってくれれば、それでいいの……っ」


ねえ、真白くん。君はたくさんの人に愛されているね。


だから、怖がらなくていいんだ。泣いてもいいんだ。一人じゃないから、私たちが絶対に、君の傍にいるから。


ぽんぽん、と真白くんの頭を撫でた柳くんが、ありがとうと口パクしてきたのに首を振る。今度は涙を拭うことなく、わあわあと泣き出した真白くんの背中を、お母さんがとんとんと叩く。私は真白くんの傍にしゃがむと、柳くんの肩を叩いていた手をそっと両手で包み込んで。みゅう、と鳴く真雪ちゃんが、もう片方の手をぺろぺろと舐めていた。


ずっとずっと、真白くんは強いんだと思っていた。中学生のうちに、柳くんと二人だったとはいえ受け止めて、受け入れて。でも、強いなんてこと、なかった。私はそれに、ちゃんと気付けなかった。


怖いの何て当然だ。誰だって怖いに決まっている。その気持ちを汲み取れなかった自分が、悔しくて。だから、今度はちゃんとみていけるようになれればなって。


悔やむことは簡単だ。でも、悔やむだけじゃあ成長できない。


それを二人に教えてもらった。真白くんが倒れたあの日。何もできなかった自分を、悔やむだけじゃ前に進めないのだと。


だから、今度は。


真白くんの逃げ場になれたらいいと。本音を曝け出せる場所になれればいいと。そのためにも、今一緒に泣いておこうと。


そんなことを思いながら、私は真白くんの手をきゅっと握り締めた。