不意に言われた言葉に、心臓が跳ねた。視線は真白くんに向けたまま、耳だけ柳くんに傾ける。柳くんは視線を合わせないことを咎めるでもなく、ただ思ったことをつらつらと流しているように思わせて、それでも私に確実に何かを伝えようとしていた。


「俺だって最初は何も出来なかった。あの頃はまだ病気だって分かったばっかだったし、加減が分からなくて今より頻繁にぶっ倒れてたし。そんでも中々対応がすぐにできるわけもねえけど、自分じゃできる、してやるって思ってたから自分のことすげえ責めた。そしたら、真白と主治医の先生から怒られた」


声に懐かしさを滲ませた柳くんが、一つ溜め息を吐いた。


「冬馬は悪くないでしょって。そんで俺が悪いっていうから、それは違うって俺が反論して。病室でケンカしてたら、主治医の先生に二人揃って拳骨落とされた。二人とも悪くねえから大人しくしろ、つうかすぐ対処できるようになったら全医療関係者が泣く、って」


そう言われたらもう責めるなんて出来なかったわ、と柳くんが吹っ切れた声で言う。言われた当時のことを思い出しているのだろう。私からしたら、現在進行形になるわけだけど。


私のせいじゃ、ない。


そう思うのは難しい。上辺だけではなくて、きちんと納得して心からというのは。でも、きっと柳くんはそれが必要だと言っている。自分を責めるのは間違っていると、教えてくれている。


私が自分を責めていることを知ったら、真白くんはどう思うだろう。考えなくても、都築さんのせいじゃないよ、と優しく言ってくる真白くんの声が想像できた。もう違うなんて反論はできないと思った。私のせいじゃないと、私はちゃんと言えるだろうか。


きっと、責めることは簡単だ。自分でも、他人でも。誰かのせいにして、問題から逃げることは難しいことではない。大体よく言うじゃないか、許すことの方が難しいって。これだってきっと一緒だ。でも、そうしないといけない。今度は真白くんが、自分を責めてしまわないように。


「……ごめん、柳くん。ありがとう」


小さく落とすと、どういたしまして、とぶっきらぼうな返事が返ってくる。責めているだけじゃなくて、次があったときちゃんと動けるようになることを考えよう。


それが、真白くんのためになると信じて。


コンコン、と控えめに響いたノックの後、そっとあけられたドアの向こうにはお母さんがいた。少し目を赤くしたお母さんは、私と柳くんを見るなり「私は帰るから、真空をよろしくね」と部屋を出ていく。柳くん、と今度は私から彼の名を呼ぶと、そっと視線を巡らせて柳くんを見た。


「お母さんに、真白くんとご両親のこと、聞いたよ」