学校に着いた。
自分の教室、3年B組に入る。春に受験を控えた3年の教室はピリピリとした雰囲気が感じられる。僕は中学を卒業したら就職をする予定だから関係はないのだけれど。
周りの連中が熱心に勉強している事が僕には薄ら寒く感じた。どんなに懸命になって勉強しても、どんなにいい高校に入っても、お前らの価値なんてたかが知れている。もちろん、そこには僕も含まれる。僕たちの未来なんて平凡かそれ以下かの二択しかない。それ以上を望めるのは一握りの特別な人間だけなんだ。多くを望めば裏目に出るのが僕たちだ。だから僕は多くを望まない。
──母を救わねば。
そう思った瞬間に頭が痛くなる。
「……それを本当に望んでいるのか?」
僕は自分に向かって問いかけた。
駄目だ、駄目だ。考えてはいけない。母には僕しかいない。
「大丈夫か?」
顔をあげると、クラスメイトが僕の顔をのぞきこんでいた。名前は知らない。
「……大丈夫。放っておいてくれればいいよ」
「顔色悪いけど」
「いいから」
僕は鞄から企業のパンフレットを取り出して眺めはじめた。
「あっそ……。もうちょっと愛想よければいいのにな」
余計なお世話だ。
パンフレットに目を通す。が、どうにも目が滑ってしまう。
もう一度顔をあげて見ると、さっきの奴が志望校のパンフレットを楽しそうに眺めていた。僕のパンフレットと見比べてみる。あいつのはこれからを期待させるような色とりどりのパンフレット。生徒たちは全員笑顔で、高校生らしい。
一方僕のは。色とりどりではあるし、写っている中卒労働者たちはみんな笑顔だ。けれど、その笑顔の中にちらほらと諦めに似たものを感じた。もちろん、本当に生き甲斐を感じているらしき笑顔の者もいる。けれど、ふとしたところに笑顔が悲しい者もいる。
──僕も、私も、高校生になりたかった。学ぶこと、遊ぶこと、友達に恋人。それだけに集中して、たまに喧嘩して、でも仲直りして。ようするに、まだ本当の意味での「子供」でいたかった。
そんな笑顔がこの中にはある。きっと、この教室の中では僕にしかわからないものなんだろう。