「それで、あなたは妹さんを殺してどう感じた?」
私は自分の中のある興奮のグロテスクな輝きを悟られまいと平静を装った。
「……最初は罪悪感でいっぱいだった。母さんは妹が死んでいて発狂していたし、父さんは頭を抱えていた。僕も最初は本当に悲しかったんだけど、だんだんとそれは演技になってね。ついにはその演技も出来なくなった」
「どうして?」
「妹をぐちゃぐちゃにした時の感覚を思い出して、笑いをこらえるのに必死だったから」
人殺しはクスクスと笑う。
「妹はまだ四歳だったから、当時中学生だった僕に妹はされるがままだったんだ。包丁で目を抉ったり…舌を思い切り抜いたりね」
人殺しはそこまで話すと、我に返ったように私を見た。
「それで……お姉さんはそんな僕が怖くないの?」
「怖いって?」
「だから、人殺しが同じ部屋にいたら自分も殺されるんじゃないかとか……」
なんだ、そんな事を心配しているのか。
「怖くない」
「本当に?」
「正直に言うとね、私はあなたのような人を待ち望んでいたの」
「僕のような?」
人殺しは目を丸くした。
「ええ、あなたのような。だって人殺しって普通じゃないと思う」
「わかってるよ。でも…でも、どうしても止められないことってあるでしょう?」
拗ねた子供のような彼はとても愛らしい。
「怒っている訳じゃないの。軽蔑してる訳でもない。……あのね、私は普通の生活に辟易してるんだ。だって、このまま平凡に生きて平凡に死んでくのって誰でも出来る。でも、あなたは違う。人を殺したって事は日常から遠く離れるということよ。そして、そんな人の側にいるって事はその人の非日常が少しでもふりかかるって事だと私は思うの。だからね、私にとってあなたは特別よ」
「特別?」
「そう。だから私はあなたの側にいることが悲劇でもいいの。殺されたってかまわないわ。あなたがいつまでも月の光を浴びた人殺しさんであればね」
一連の会話を終えて、人殺しと私の間にしばしの沈黙があった。
「わかった…」
「うん、よかった」
私の中を充足感が駆け巡った。
そういえば……と、ふと気になって聞いてみる。
「ところで、妹さんを殺したことはご両親にバレなかったの?」
「妹を殺して三日後に逃げたんだ」
逃げた?そもそも、彼は今までどこにいたんだろう。
「逃げる前はどこに?」
「××県だよ。そこの……ほら、海が有名な」
「随分遠くから来たのね。歩いて?」
「うん、2日はかかった」
そして、彼は追っ手が来ているかもしれない状況に怯えながらも人を殺していった…。
──羨ましい。
私もそんな刺激が欲しい。
「じゃあ、お腹空いてるんじゃない?」
「少しだけね」
「適当な物を作るわね」
人殺しはそこでやっと普通の笑顔を私に向けた。一瞬、その笑顔は私にとって忌々しい物に思えた。
「ありがとう。お姉さん」
私は自分の中のある興奮のグロテスクな輝きを悟られまいと平静を装った。
「……最初は罪悪感でいっぱいだった。母さんは妹が死んでいて発狂していたし、父さんは頭を抱えていた。僕も最初は本当に悲しかったんだけど、だんだんとそれは演技になってね。ついにはその演技も出来なくなった」
「どうして?」
「妹をぐちゃぐちゃにした時の感覚を思い出して、笑いをこらえるのに必死だったから」
人殺しはクスクスと笑う。
「妹はまだ四歳だったから、当時中学生だった僕に妹はされるがままだったんだ。包丁で目を抉ったり…舌を思い切り抜いたりね」
人殺しはそこまで話すと、我に返ったように私を見た。
「それで……お姉さんはそんな僕が怖くないの?」
「怖いって?」
「だから、人殺しが同じ部屋にいたら自分も殺されるんじゃないかとか……」
なんだ、そんな事を心配しているのか。
「怖くない」
「本当に?」
「正直に言うとね、私はあなたのような人を待ち望んでいたの」
「僕のような?」
人殺しは目を丸くした。
「ええ、あなたのような。だって人殺しって普通じゃないと思う」
「わかってるよ。でも…でも、どうしても止められないことってあるでしょう?」
拗ねた子供のような彼はとても愛らしい。
「怒っている訳じゃないの。軽蔑してる訳でもない。……あのね、私は普通の生活に辟易してるんだ。だって、このまま平凡に生きて平凡に死んでくのって誰でも出来る。でも、あなたは違う。人を殺したって事は日常から遠く離れるということよ。そして、そんな人の側にいるって事はその人の非日常が少しでもふりかかるって事だと私は思うの。だからね、私にとってあなたは特別よ」
「特別?」
「そう。だから私はあなたの側にいることが悲劇でもいいの。殺されたってかまわないわ。あなたがいつまでも月の光を浴びた人殺しさんであればね」
一連の会話を終えて、人殺しと私の間にしばしの沈黙があった。
「わかった…」
「うん、よかった」
私の中を充足感が駆け巡った。
そういえば……と、ふと気になって聞いてみる。
「ところで、妹さんを殺したことはご両親にバレなかったの?」
「妹を殺して三日後に逃げたんだ」
逃げた?そもそも、彼は今までどこにいたんだろう。
「逃げる前はどこに?」
「××県だよ。そこの……ほら、海が有名な」
「随分遠くから来たのね。歩いて?」
「うん、2日はかかった」
そして、彼は追っ手が来ているかもしれない状況に怯えながらも人を殺していった…。
──羨ましい。
私もそんな刺激が欲しい。
「じゃあ、お腹空いてるんじゃない?」
「少しだけね」
「適当な物を作るわね」
人殺しはそこでやっと普通の笑顔を私に向けた。一瞬、その笑顔は私にとって忌々しい物に思えた。
「ありがとう。お姉さん」

