着いてこないと思ったけれど、人殺しは着いてきた。
私の家は、小さなアパートの一階。人目を避けるのは簡単だった。
「入って」
小声で呼ぶと、人殺しは丁寧に靴を揃えて家の中に入ってきた。
「お風呂に入って血を流して」
人殺しは何も言わずに、素直に風呂に入っていった。脱衣所にある彼の血まみれの服を洗濯機に放り込んで、代わりに私の大きめのTシャツを置いておいた。人殺しは女性ものの服が着れるほどに細見だったからだ。
人殺しが風呂から出ると、Tシャツを着て出てきた。それを着てもまだ余裕のある彼の痩せかたは異常だった。
「座ってて。お茶をいれてあげる」
そう声をかけると、人殺しはカーペットの上に正座をして、ジッとテーブルの木目を見つめていた。
ティーカップを二つ持って、私は人殺しの前に座った。
「はい」
私は人殺しの前にカップを置いた。無言で頭を下げられる。
雑談でもしてみよう。
「あなたは随分と若く見えるけど、いくつなの?」
人殺しはうつむいたまま答えた。
「17」
驚いた。思ったより若かったのだ。
「そう」
相づちを打ちつつ、私はこの人殺しを家に引き止める言葉を考える。
「うん、事が落ち着くまでここにいるといいよ」
人殺しは驚いたように顔をあげた。
「なんで…?」
「なんでって……」
理由……。考えれば考えるほど分からない。私はこんなに無計画な女だっただろうか。
「物事に理由を求めてたらきりがないよ。つまりは……つまりはなんとなく」
人殺しは釈然としない様子で首を傾げていた。
「でも、僕を匿っている事がバレたらお姉さんも僕も捕まってしまう」
「その時はその時じゃない?」
人殺しはますます訳が分からないという顔をする。
「細かいことは気にしないでおこうよ。取り合えず、君はほとぼりが冷めるまで私の家にいればいいよ。食事も出すし、人並みの生活は保障してあげる。……どう?君に不利なことはないでしょう?」
人殺しはしばらく首を傾げていたが、やがて私の顔を見た。
「僕は……僕は、今までに三人殺してる」
私は頷きながら、彼の話を黙って聞く。
「最初は猫を殺した事から始まった。友達の家の猫が僕の家に入ってきたんだ。それで、包丁でじっくりとお腹を裂いたんだ」
人殺しの顔はうっとりと、夢を見るような顔だった。
「その猫、妊娠しててね。中に不完全な形の子猫が入ってた。引っ張り出して包丁で中を掻き回したらね、猫はすごく苦しそうな声で鳴いて死んじゃった。僕は、それを見て殺すことが快感になった」
彼が猫の腹を掻き回している時の顔はきっと恍惚としていたのだろう。目を細めて、唇の端を吊り上げて。無邪気な子供のように。
「それで犬も猫も、ウサギも。殺せるものは手当たり次第何でも殺した。そしたら、だんだん人間も殺したくなって……抑えられなくて」
彼はやや自嘲気味だけれど、満足げな笑みで私に言った。
「妹を、殺した」
私の家は、小さなアパートの一階。人目を避けるのは簡単だった。
「入って」
小声で呼ぶと、人殺しは丁寧に靴を揃えて家の中に入ってきた。
「お風呂に入って血を流して」
人殺しは何も言わずに、素直に風呂に入っていった。脱衣所にある彼の血まみれの服を洗濯機に放り込んで、代わりに私の大きめのTシャツを置いておいた。人殺しは女性ものの服が着れるほどに細見だったからだ。
人殺しが風呂から出ると、Tシャツを着て出てきた。それを着てもまだ余裕のある彼の痩せかたは異常だった。
「座ってて。お茶をいれてあげる」
そう声をかけると、人殺しはカーペットの上に正座をして、ジッとテーブルの木目を見つめていた。
ティーカップを二つ持って、私は人殺しの前に座った。
「はい」
私は人殺しの前にカップを置いた。無言で頭を下げられる。
雑談でもしてみよう。
「あなたは随分と若く見えるけど、いくつなの?」
人殺しはうつむいたまま答えた。
「17」
驚いた。思ったより若かったのだ。
「そう」
相づちを打ちつつ、私はこの人殺しを家に引き止める言葉を考える。
「うん、事が落ち着くまでここにいるといいよ」
人殺しは驚いたように顔をあげた。
「なんで…?」
「なんでって……」
理由……。考えれば考えるほど分からない。私はこんなに無計画な女だっただろうか。
「物事に理由を求めてたらきりがないよ。つまりは……つまりはなんとなく」
人殺しは釈然としない様子で首を傾げていた。
「でも、僕を匿っている事がバレたらお姉さんも僕も捕まってしまう」
「その時はその時じゃない?」
人殺しはますます訳が分からないという顔をする。
「細かいことは気にしないでおこうよ。取り合えず、君はほとぼりが冷めるまで私の家にいればいいよ。食事も出すし、人並みの生活は保障してあげる。……どう?君に不利なことはないでしょう?」
人殺しはしばらく首を傾げていたが、やがて私の顔を見た。
「僕は……僕は、今までに三人殺してる」
私は頷きながら、彼の話を黙って聞く。
「最初は猫を殺した事から始まった。友達の家の猫が僕の家に入ってきたんだ。それで、包丁でじっくりとお腹を裂いたんだ」
人殺しの顔はうっとりと、夢を見るような顔だった。
「その猫、妊娠しててね。中に不完全な形の子猫が入ってた。引っ張り出して包丁で中を掻き回したらね、猫はすごく苦しそうな声で鳴いて死んじゃった。僕は、それを見て殺すことが快感になった」
彼が猫の腹を掻き回している時の顔はきっと恍惚としていたのだろう。目を細めて、唇の端を吊り上げて。無邪気な子供のように。
「それで犬も猫も、ウサギも。殺せるものは手当たり次第何でも殺した。そしたら、だんだん人間も殺したくなって……抑えられなくて」
彼はやや自嘲気味だけれど、満足げな笑みで私に言った。
「妹を、殺した」

