手紙の内容は、最初は理解が出来なかった。脳が、体が、俺自身が、理解することを知らぬ間に拒絶していたのかも知れない。
理解した瞬間、深い絶望感に包まれ 膝から崩れ落ちた。
佑利子は…佑利子は死んだのか……?
目を見開いて呆然とした後に、あることに気がついた。
「樹は……?」
この手紙が封筒から出されているということは樹はこの手紙を読んだということかもしれない。そう思った瞬間、脳裏に学校で見たあの人だかりの真ん中が気になりはじめた。
まさか…あれは……!?
そう思ったときに、俺はもうすでに駆け出していた。退院してすぐの体は、突然の激しい運動に悲鳴をあげていたが、そんなことは一切気にならなかった。
「樹!」
走りながら何度息子の名前を呼んだことだろう。
学校に着くと、野次馬は救急車を見送って話をしていた。俺は一人の中年女性に話しかけた。
「あ、あの……!」
きっと俺は物凄い形相をしていたのだろう。女性は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに愛想笑いを浮かべた。
「何かしら?」
「何があったんですか」
女性は心底気の毒そうな顔をして言った。
「中学生の男の子が飛び降りたみたいよ。まだ若いのに、可哀想に……」
俺はそれを聞いて救急車の向かって行った方向に全力で走った。
「ちょっと!どうしたの!?」
女性の大きな声が俺を追いかけたが、俺は振り向くこともせずに走った。
───樹!頼む……!まだ死なないでくれ!
心臓がキリキリと痛む。息が出来ない。
その場にうずくまりたくなるが、走ることは止められない。
「樹……!」
ようやく病院に辿り着いた。
受付に向かう。
「すいません!」
看護師は怪訝な顔を浮かべた。
「なんでしょうか?」
「さっき、救急車で……運ばれた男の子は……!?」
息も絶え絶えに訪ねる。心臓が何かに強い力で握り締められているような心地だ。
「失礼を承知で聞かせて頂きますが、どのような関係で?」
「息子かも知れないんです!」
早く、早くその子を見せてくれ!
樹なのか、そうでないのか、はっきりさせてくれ!
「少しお待ちください」
看護師は奥に引っ込み、しばらくして貫禄のある別の看護師が出てきた。
「こちらへ」
前を進む看護師の後ろを俺はついていく。息を整え、次第に平静を取り戻した。
「着きましたよ」
俺は顔を上げた。