棺に突っ伏して俺はただただ泣きじゃくった。まさか、愛する妻と我が子が自殺をするなんて。俺はひたすらに自分を責めた。
自らの手で自分を殺してやりたい。人がこんなに憎いのは生まれて初めてだ。

俺はあの日退院した。酒には一切の興味が湧かなくなり、明日を見つめて家族とやり直す事を決意していた。
───きっと俺の事を憎んでいるだろう。家族だと思わなくていい。でも俺が一方的に家族だと思う事をどうか許して欲しい。そんな思いで俺は病院から歩いて我が家に帰った。
帰りに樹の中学校が見えた。なぜか人だかりが出来ている。学校の大きな時計を確認すると、朝の6時。こんな朝早くにどうしたのだろうか。見に行こうとしたが、思い直して帰路に着いた。そんなことより早く家族に会いたい。
緩やかな坂を上ると、左手に我が家が見える。茶色い屋根に、薄汚れた白い壁。そんな、汚れさえも今の俺にはいとおしい。
ドアノブに手を伸ばした。一瞬の躊躇こそあったものの、意を決してドアを開いた。俺が居たときよりも少しばかり簡素になった部屋がそこにはあった。
「ただいま」
語尾が少しかすれた。久しぶりの再開に緊張しているらしい。
しばらく待ってみるが、返事はない。
なんだ、出掛けているのか。
中に入ると、案の定 人の気配はない。
「誰もいないのか?」
部屋に向かって訪ねても、返ってくるのは静けさだけだった。
仕方なく、靴を脱ぎ揃えて家に上がった。
リビングに向かってみる。
机の上には、封筒と便箋が無造作に置かれている。それは心なしか湿っているように見える。なんとなく不安に思い、手に取った。妻である佑利子の美しい字でびっしりと何かが書かれている。
───読んでは駄目だ。
直感がそう告げた。が、俺は己の感を律し静かに便箋の文字を追い始めた。