天井に吊り下げられたモービルが夕陽に照らされてキラキラと輝いている。ベビーベッドに寝ている僕を見下ろして微笑む父と母の顔はとても穏やかだった。
それは僕の中にある、僕が覚えている、たったひとつの優しい思い出だ。僕は夢の中で、赤ん坊の僕の目線を借りて両親の笑顔に精一杯微笑みかける。夢を見ている間は幸せだ。けれど、そんな夢を見た朝はどうしようもなく辛いのだ。冷たい現実が僕の暖色に満たされた胸に槍を突き立てる。喉に小石がいくつも詰まったような気になる。そして、僕は静まり返った部屋の隅で声を押し殺して泣く。

あぁ、早く。早く僕をどこか遠い所へ。