あの子は今日もいる。
白い大きなヘッドホンから時折見える四つのシルバーピアスが輝いている。長い髪の毛は今日は頭の高い位置で纏めてある。今日も21時に彼女は此処へやって来た。
ヘッドホンを外す時、彼女はちらりとこちらを見る。射抜かれそうな猫みたいな大きな瞳を向けてくる。僕が彼女を見ていたことに気づいたのか、それとも一週間前からの恒例の儀式になってしまったのかわからないけど、1度だけ、彼女は僕を見る。僕もその1度だけ、彼女と目を合わせる。
彼女はいつもレモンティーを買う。真冬の今でもアイスのペットボトルのレモンティー。そして煙草。マルボロメンソール。初めて彼女に煙草を売った時、彼女に身分証明書の提示をお願いしたら、少し眉を潜めたあとに財布の中から免許証を差し出した。
香坂依梨夏。彼女の名前。免許証の提示を求めた生年月日を見るより先に彼女の名前が目に付く。1996年8月27日。僕より一つ年下だ、コンビニでバイトを始めて、そんな邪魔な感情を初めて抱いたのは、彼女がとても、綺麗だったから。