心臓がバクバクと波打っている。
ついに来た、この日が。幾年も前から願っていた日が。
どのくらい憧れただろうか。
私は、制服の、腰辺りにある右のポケットに入っている『あるもの』をぎゅっと握りしめ、その感触を確かめる。
よし、ちゃんとある。
唇をきゅっと噛み締めた。全身に力が入る。
まずは大きな声で挨拶だ!
何かしらのデビューには、挨拶がまず一番大事。そう何かの本に書いてあった。
呼吸を整える。すう、はあ、すう、はあ。
そして私は、目の前に立ちふさがるドアを、勢いよく、開けた――!
......っとまてまて。
大事なことを忘れてるぞ、私。
ドアの少し前で手を止めた私は、手を裏返して手のひらに『人』の文字を書く。そして、ゴクリ。飲み込む。
......よし、準備は万端だ。
私はもう一度深呼吸して、緊張で震える手を、ドアにかけた。
...... い、いくぞ......?
いくからな?いっちゃうからな?ドア、開けちゃうからな?せーのっ。......本当に行くから......
はやくいけ。
心の中の、もう1人の私が言う。
...... 私はありったけの力を込めて、ガラッとドアを開けたーー......!!
「おはy......!」言いかけた。
とたん。
「おはよう、晴香」
「ぴゃうっ!」
背中がポンと叩かれた。思わぬ出来事に、肩がビクッと震えた。
「ぴゃうって......。あんた、なんて声出してんのよ」
いつの間にか背後に来ていたのは、私の親友、桜坂モモだった。
桜なのか桃なのかわからないけど、私はモモと呼んでいる。
「なんだモモかあ......。ビックリした......」
「なんだとはなんだ、なんだとは。......教室入らないの?」モモは教室の中を指差しつつ、私に問いかける。
「あ、いや、入る、けども......」
私は左手に提げていた鞄を、両手で顔の前に持ってきて、顔を隠す。恥ずかしい、のポーズ。
「......なに?高2の始めから何やらかしたの?」
「なんで何かやらかしてる前提なの!?」
私は思わずつっこむ。
「だって、あんた中2の頃」
「わああああーー!!それは忘れてっていったでしょ!? ね!?」
危うく私の黒歴史を暴露されるところだった。誰も聞いてるわけないけど。
「......じゃあ何なの?」
ため息をついたモモは、呆れ顔で訊いてきた。
私が恥ずかしがる理由の候補が少ないと思うのですが。そこんところ、親友さんどうなんですか?(泣)
......そろそろ、『あるもの』の正体を明かそうかな。
私は、『あるもの』をポケットから、ゆっくりと、もったいぶって、出していく。
窓から射し込む春日の光の束が、『それ』をやさしく、包み込むように照らす。
「......そ、それって......」
モモも少し動揺しているようだ。
「す、す......」モモの口が、『それ』の名前を表す形になっていく。
「そう、これはーーー」
私はバッと、『それ』を天高く掲げて、名を呼んだ。
「SU・MA・「ただのスマホじゃん」ho......」
「「......」」
私は一瞬、何が起こったのか、よく分からなかった。
「......あれ?」
私の想像としては、モモが目を飛び出させるほど驚くはずだったんだけどな......。
中学と、高校一年。そんな大事な時期をガラケーで過ごした私にとって、スマホというのは、夢と希望と喜びが入り混じった宝物なのだ。
もちろん連絡方法も大きく変わって、モモとの連絡が楽になるから......モモも一緒に喜んでくれると思っていたけど......?
「......それだけ?」
「え、あ、いや......うん......」
「そ」
モモは、一言ならぬ、一文字しか残さないで、私に背を向けて教室へ入っていった。
「.......」
こうして、
私、春先晴香の、高2スマホデビューは失敗に終わったのだった......。
ついに来た、この日が。幾年も前から願っていた日が。
どのくらい憧れただろうか。
私は、制服の、腰辺りにある右のポケットに入っている『あるもの』をぎゅっと握りしめ、その感触を確かめる。
よし、ちゃんとある。
唇をきゅっと噛み締めた。全身に力が入る。
まずは大きな声で挨拶だ!
何かしらのデビューには、挨拶がまず一番大事。そう何かの本に書いてあった。
呼吸を整える。すう、はあ、すう、はあ。
そして私は、目の前に立ちふさがるドアを、勢いよく、開けた――!
......っとまてまて。
大事なことを忘れてるぞ、私。
ドアの少し前で手を止めた私は、手を裏返して手のひらに『人』の文字を書く。そして、ゴクリ。飲み込む。
......よし、準備は万端だ。
私はもう一度深呼吸して、緊張で震える手を、ドアにかけた。
...... い、いくぞ......?
いくからな?いっちゃうからな?ドア、開けちゃうからな?せーのっ。......本当に行くから......
はやくいけ。
心の中の、もう1人の私が言う。
...... 私はありったけの力を込めて、ガラッとドアを開けたーー......!!
「おはy......!」言いかけた。
とたん。
「おはよう、晴香」
「ぴゃうっ!」
背中がポンと叩かれた。思わぬ出来事に、肩がビクッと震えた。
「ぴゃうって......。あんた、なんて声出してんのよ」
いつの間にか背後に来ていたのは、私の親友、桜坂モモだった。
桜なのか桃なのかわからないけど、私はモモと呼んでいる。
「なんだモモかあ......。ビックリした......」
「なんだとはなんだ、なんだとは。......教室入らないの?」モモは教室の中を指差しつつ、私に問いかける。
「あ、いや、入る、けども......」
私は左手に提げていた鞄を、両手で顔の前に持ってきて、顔を隠す。恥ずかしい、のポーズ。
「......なに?高2の始めから何やらかしたの?」
「なんで何かやらかしてる前提なの!?」
私は思わずつっこむ。
「だって、あんた中2の頃」
「わああああーー!!それは忘れてっていったでしょ!? ね!?」
危うく私の黒歴史を暴露されるところだった。誰も聞いてるわけないけど。
「......じゃあ何なの?」
ため息をついたモモは、呆れ顔で訊いてきた。
私が恥ずかしがる理由の候補が少ないと思うのですが。そこんところ、親友さんどうなんですか?(泣)
......そろそろ、『あるもの』の正体を明かそうかな。
私は、『あるもの』をポケットから、ゆっくりと、もったいぶって、出していく。
窓から射し込む春日の光の束が、『それ』をやさしく、包み込むように照らす。
「......そ、それって......」
モモも少し動揺しているようだ。
「す、す......」モモの口が、『それ』の名前を表す形になっていく。
「そう、これはーーー」
私はバッと、『それ』を天高く掲げて、名を呼んだ。
「SU・MA・「ただのスマホじゃん」ho......」
「「......」」
私は一瞬、何が起こったのか、よく分からなかった。
「......あれ?」
私の想像としては、モモが目を飛び出させるほど驚くはずだったんだけどな......。
中学と、高校一年。そんな大事な時期をガラケーで過ごした私にとって、スマホというのは、夢と希望と喜びが入り混じった宝物なのだ。
もちろん連絡方法も大きく変わって、モモとの連絡が楽になるから......モモも一緒に喜んでくれると思っていたけど......?
「......それだけ?」
「え、あ、いや......うん......」
「そ」
モモは、一言ならぬ、一文字しか残さないで、私に背を向けて教室へ入っていった。
「.......」
こうして、
私、春先晴香の、高2スマホデビューは失敗に終わったのだった......。