「前にも言ったはずです。僕は“男”でいなきゃいけないんです。ですから、こんな大っぴらな場所で“チャン”“チャン”言わないで下さい。それでなくても、喜島さんは声が大きいんだから……」


飛鳥の眉間には深い皺が刻まれていた。

苦言を呈するうちに、口を塞ぐ手にも力がこもっていく。

しかし、飛鳥はその事に気付いていない。

段々と呼吸が苦しくなる櫂人は、それを知らせようと彼女の手の甲をトントンした。

それと同時に、言葉にならない声をモゴモゴあげている。


「……わっ!ごめんなさい!」


彼の必死のサインに気付いた飛鳥は、慌てて手を離して謝罪した。

櫂人は地球上の酸素を全て取り込もうとするように息を吸ったり吐いたりを繰り返す。


「だ、大丈夫……大丈夫。いや、俺が悪かった」


こんな時でも目の前の彼はとても優しい。

決して責めたりしない。


「人口呼吸してくれたら一発で治るんだけどさ」


櫂人はおちゃらけ顔で言葉を足した。

これさえなければ本当にイケメンなのに。

飛鳥は心から残念そうな表情をして彼を見た。