一之瀬さんちの家政婦君


彼女がこの世界中の誰よりも幸せでなければ、櫂人の心は諦めがつかない。

“自分が幸せにする”と彼女を追いかけてしまう。

「お願い、約束して」

櫂人はもう一度頼み込む。

彼の想いを汲んでなのか、飛鳥は首をコクンと縦に倒し「分かりました」と了承する。

そして、櫂人はようやく腕を解いて飛鳥の身体を解放した。

飛鳥は改めて櫂人の方へ振り向く。

彼女の頬はほんのりと紅潮していた。

この期に及んで“可愛い”なんて思ってしまう自分の下心が櫂人としては情けなかった。

「……ほら!もう行きな」

櫂人は飛鳥に促した。

自分の下心が目を瞑っているうちに彼女が本当に求める場所へと行ってほしい。

飛鳥は深々とお辞儀して、珈琲店を後にする。

カランコロンとドアが開閉するたびに鳴る音色。

こんなに切なく聞こえる日が来るなんて思わずに、櫂人は一人苦笑いしたのだった。