一之瀬さんちの家政婦君


「ありがとうございます」

運んでくれた櫂人に礼を言って、立ち上る香ばしい香りを楽しむ。

櫂人は上着を脱ぎながら「今日はどうしたの?」と尋ねた。

さすがの飛鳥もその問いに即答するのは尻込みしてしまう。

彼のおじいさんがいるそばで“告白の返事をしに来ました”なんてとても言えない。

飛鳥はカウンターの中でグラスを拭いているマスターの様子をちらりと窺(うかが)った。

「あ、あぁ……そういえば町内会の集まりに呼ばれていたのを忘れていた」

飛鳥の様子に気付いたマスターは、急に思い出したかのようにそう言って慌しくカウンターから出てくる。

「櫂人、ちょっと店番頼むな」

手早くエプロンを外すと、飛鳥に向かって「ごゆっくり」と挨拶をして早々と店を出て行ってしまった。