一之瀬さんちの家政婦君


まったく記憶が甦(よみがえ)らない。


男の子は何人かいたが全部親族だ。

親族以外の子どもは大人よりも目立つはず。

幼い記憶など当てにならないかと眉を下げる。

「お記憶にございませんか。葬儀場の廊下の片隅で泣いている男の子にあなたは優しく声をかけて下さった」

杉下が当時の状況を丁寧に説明する。

そのおかげで、靄(もや)だらけだった飛鳥の記憶は徐々に鮮明さを取り戻す。

確かに居た。

男のくせにやたらボロボロと涙を流していた男の子。

あまりに泣くから可哀想になって、母に贈るはずだった百合の花を手渡した。

「あの男の子が一之瀬さんだったなんて……」

可愛い。

今の彼からは想像もつかない。

飛鳥は思わずプッと吹き出す。