「小春。」




保健室で、安城先生と2人の時はこう呼ばれている。





「舞ちゃん…。お願いします、絶対千秋には話さないで。」






「分かった。


じゃあ、とりあえず胸の音聞かせて。」







舞ちゃんの言われた通りに、制服のワイシャツを浮かせた。








舞ちゃんは が少しだけ険しい表情になったのを、見逃さなかった。







私は、舞ちゃんのその表情に一気に不安になって、ベッドのシーツを握りしめていた。







「小春?苦しい?」






そんな様子を見ていた舞ちゃんは、チェストピースを耳から離し、私の表情を確認した。





「舞ちゃんが、険しい顔をしたから…。」





「あぁ…。そうね。



ねぇ、小春。




普段の生活の中で、胸が急に苦しくなったり呼吸が辛くなったりしたことあるかな?」






思い当たる節は、いくつかある。





それも、3ヶ月前から。






「その顔は、思い当たる節があるようね。



いつから、我慢してたの?」







「苦しくなったのは、3ヶ月前から…。」







「3ヶ月も前から!?」






舞ちゃんの表情は、一気に変わって看護師の顔になった。





「小春、千秋に話そう。」






「ダメだよ、千秋は今忙しいって…。」






「それでも、胸が苦しいことを隠してて後で取り返しのつかないことになったらどうするの。」






「とにかく、千秋には迷惑をかけたくない。



だから、このままでいい。




何かあったら、すぐに舞ちゃんに話すから。」







「でもね、小春。」








「すみません、入学式の演奏がありますから失礼します。」






「あっ!小春!」




私は、舞ちゃんの呼び止める声から避け、急いで体育館へと向かった。





「小春!何してたの!?


2年のくせに、3年生に楽器運びまでやらせて。


どういう神経してるの!


どこに行ってた!」





「すみません…。ハアハァ…」




「ちょっと、朋美。


小春にきつく言いすぎだよ。」






パーカッションの先輩であり、部長でもある。





「本当に、すみませんでした。香織先輩もすみません。」





「私は、いいのよ。


けどね、朋美。小春は朝から体調が悪くて保健室に行ったっていう知らせを、吉森先生から聞いたじゃない。



それなのに、どうして小春に強く当たるのよ。




パートリーダーとして、私が許せない。」






「香織は少し、自分の後輩に甘すぎるんじゃない?」






香織先輩と朋美先輩の言い合いに、次第に胸が苦しくなって、朋美先輩の怒鳴り声が怖かった。






「小春!?」






「小春!!」




私は、陽向の言葉を聞くことなく、意識を失った。