俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません




「あ?」

俺がその手に振り返ると、そこには見知らぬ若い男がニヤニヤ笑いながら立っていた。
少し長めの茶髪を遊ばせて、ジャラジャラとネックレスやらアクセサリーやらを付けている、明らかに軽そうな男だ。

俺はそいつの不敵な笑みにイラッとして、じっと睨みつける。


「おいおい、そんな睨まなくてもいいじゃねえか」

「誰だよ、お前」

「俺は、和田拓実(わだたくみ)。さっきお前らの演奏を客として聴いてたんだ」

「ふーん……で?」

「つれねえなあ」

和田と名乗る男は苦笑いをしながら、ははっと言った。


そして、

「お前らに良い提案がある」

と一層気持ち悪い笑顔を浮かべた。


「なんだよ?」

俺が眉を顰めながらそう問うと、和田は急に真剣な顔をして紙を一枚渡してきた。



『俺を、お前らのバンドのメンバーに入れてほしい』