俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません



そんな光達の机を挟んだ向かい側に俺と音生が座ると、音生は俺の服の袖を軽く引っ張ってメモを渡した。


『コウくんにこっち向いてって言って』

どうやら、音生は光に何か話があるようだ。
俺は光に、おいと声をかけた。



「え?何?」

怪訝に音生を見た光に、音生はあるメモを見せる。



俺にとっては既に普通の光景で大して驚かなかったが、音生にとってはそうではない。

『どうしてイツキくんを立たせているの?座ってもらって』

音生が話したかったことは、俺が慣れきった異常な光と橋本の関係のことだった。


「は?何でお前にそんなこ……って、耳が聞こえないなら何も分かんねえか」

馬鹿にしたようにそう笑った光に怒りしか感情が湧いてこないが、ぐっとそれを抑えた。
光が音生に対してこんな対応をするのも、音生の歌声を聴くまでの間だろうと思ったからだ。


「椿、そんなことお前に関係ないって返しといて」

こいつはやはり、昔から人を使うのが上手い。
というより、人を使うことに対して何の躊躇いもなく、ごく当たり前のことだと思っている。