今年も暑い夏がやって来る。

気持ちもやる気も何もかも奪っていく夏。

あたしが一番嫌いな季節。

太陽の日差しが嫌い。

蝉の声が嫌い。

ベタつく汗と味が嫌い。

夏のにおいが嫌い。

全部、嫌い。

思い出したくなくても、忘れてはいけない記憶が鮮明に浮かび上がってくる夏が死ぬほど大嫌いだ。





嫌いな太陽の日差しがカーテンの隙間から漏れだす朝。

いつものようにリビングに向かえば、お酒の臭いとビール缶の山。

食卓テーブルで顔を伏せて寝ている早苗さんを、あたしは申し訳なさそうに眺めるのが日課になっている。

あの事件から8年、早苗さんを変えてしまったのも、事件の引き金になったのも、全てあたしのせいだから。

リビングにあるお仏壇に手を合わせて、涼香に挨拶をする。


「おはよう、ずずちゃん…今日も暑くなりそうだね」


涼香が亡くなった8年前の事件。

あたしは未だに引きずっている、あの時止められていたら、言わなければ…タラレバばかり口にして、本当は逃げ出したいのに そんな勇気も出せない自分に。

後悔ばかりが募るあたしは、きっとこの縛りから抜け出せることが出来ない、いや しないと思う。

自分への戒め。

カランッ

後ろで音が鳴って我に返った。

早苗さんがムクッと顔を上げて あたしを見た。


「……涼香…」


枯れている声でそう言った早苗さんを、まだ酔いが覚めていないんだと思う反面、罪悪感がまた増えた。


「…おはよう御座います」


そう一言挨拶をして、すぐ部屋に戻った。

あたしだと気づいた早苗さんの視線が酷く冷たく恨むような、そんな感じがして 目を合わせるのが未だに出来ない。

あたしは現実を目の前にして逃げてる臆病者だ。