空が赤く染まってきた。
夕暮れだ。
(私…いつまで外を見てたんだ?)
私は立ち上がり、自分の住処へと戻る。
ほんとはお母様とは顔をあまり合わせたくないけど、
でも、住処へ帰らなければ私の夕飯もない。
「お母様?」
「…あら、遅かったですね。」
お母様は夕飯を狩ってきたのか、肉を分けている。
「……お母様、話があるのです。」
「…」
私はきっと、少年に恋をしてしまったんだと、さっき空を見ながら思った。空を見てる最中もずっと、少年の顔しか浮かばない。
少年の顔が浮かぶ度、ドキドキ、心臓が高まる。
「私、やはり人間に恋をしてしまったようです。」
「……」
お母様は無言で肉を分けていたが、ピタッと、肉を分けるのをやめ、私の方に振り返った。
「…やはり、そうなのですか?」
「はい。きっと。確実に。」
私はそう言うと、お母様の隣に座る。
「……人間に恋をすると、ろくな事がないのですよ。」
お母様はまた悲しそうな表情を見せる。
「…それは承知のうえです。」
私がそう言うと、お母様が1冊の本をくわえてもってきた。
「…私達狐は、人間に恋をした場合、その好いてる人間に触れられると、人間に化ける事ができるの。でもそれは、その人が私達に触れている間だけ。私達からその人が触れるのをやめると狐に戻ってしまうのです。」
お母様はそう言いながら持ってきた本を開く。
「…では、私はあの少年に触れられてる時だけ人間になれる…ということですか?でも私、1回猫に化けて触れられましたけど、人間に化けませんでしたよ?」
「それはまだ、恋だと気づいてないからです。恋だと気づいてそれを認めた狐だけに起こる現象なのです。」
お母様が開いたページとお母様が言っている言葉は一緒だった。
なぜお母様がここまで知っているのか…。
「明日、少年に触れてもらいなさい。狐の姿のままですよ。」
お母様はそう言いながら、私に分けていた肉を渡す。
「…それって、少年の前で人間の姿になる…ということですか?」
「そうです。」
…それって、私が狐だと分かってしまう…という事か。
怖い…。怖いけど…。
進むためにはやらなければならない事なのか…。
私はお母様が取ってきた肉を食べ、その晩、ぐっすり明日に備えて体を休めた。
