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あれから数日後。
少年はいつものように、1日もかかさずに神社に来る。
少年を見る度にまた近づきたい。
触ってほしいという気持ちがあるのは事実だが、
あの胸の痛みはもう味わいたくない。
きゅーって、苦しくなるし…。

「なんなのだろう…あんな胸の痛み…私は知らない…。」

私は今日もお参りしている少年を影から見つめながら言う。

「胸の痛みとは、どういう痛みなのですか?」
「うわぁ!!お母様…。」

後ろを振り返ると、私の独り言を聞いていたのか、
お母様が私に聞く。

「…それは…こう、、胸がきゅーっと…。」

私が胸をおさえながら言うと、
お母様は目を輝かせながら私の肩をがしっと掴む。

「恋をしたのですね!?」
「…恋?」

『恋』というものは、知っている。
前、お母様から聞いたことがある。
好きな者ができて、その者だけに特別な感情が芽生えるとかなんとか。

(でも恋って、、こんな胸の痛みがあるのか…?)

私はお母様が言ってる意味がよく分からなく、
首を傾げる。

「その胸の痛みはどんな時に起こるのですか?」

お母様がまだキラキラ目を輝かせながら言う。
うーむ…そんなに私に恋をして欲しかったのだろうか…。

「…いつも神社にお参りにきている少年に、触れられた時です。」
「…」

私がそう言うと、お母様は黙り込んだ。
なんか…さっきと雰囲気が違うぞ…。

「…それは、人間…ということですか?」

お母様が私を見つめる。
なんだか…悲しい目だ…。

「…恋だとしたら、多分そうなのでしょうか…。」

私がそうお母様に言うと、お母様はふらふらどっかに行ってしまった。

「…なんだったんだろう、あの重い空気。」

お母様があんなに悲しい表情をするのも初めて見た。
狐が人間に恋をすることが、そんなにいけない事だろうか。
ていうか、恋なのだろうか。

「分からんな…。」

私は空を見上げながら、少年の顔を思い浮かべた。
『会いたい。』ただそれだけの言葉しか、出てこなかった。