「楓ちゃん、これよろしく」
「はい」



 本屋に勤めながら、貯金をし。
 高校のときあれををしていればとか、後悔を時おりしながらも、時は戻らないんだよなと思い知らされる。


 連絡を取り合っていた人も一人減り、また一人と減っていく。しまいには結婚したなどという話が聞こえはじめて、溜め息が増える。もうそんな歳なんだ、と。

 エプロン姿で本を並べ、おすすめはというコメントを書き、レジをやり。私はあれから大人という分類になったが、文字通り大人になれただろうか。

 

「こんにちは」



 レジに立った男がいきなりそういったので、私はあ、と顔を見る。ぼうっとしてて待たせていたかと思ったのだが、それなら挨拶ではなく、すみませんだとか、あのちょっとー、だろう。

 普段お客の顔をあまり見ない私は、慌てて顔をあげて見た客の顔を、あれ?と思った。どっかでとその顔を見て思う。だがどこだったかわからないので出されたものをレジに通すが「え、もしかして忘れてる!?」と大袈裟にのけ反るそれに、ぶわりと記憶が戻ってくる。


 ―――先輩、眼鏡とってください。
 嘘でしょ。



「御来屋…?」



 レジなのだから、品物をと慌てて通すなか「先輩、変わらないっすねー」やら「働いている場所同じでよかったっす」やら「じゃなかったら会えなかった」などと言っているのが耳に入ってくる。

 私はここでようやく「御来屋君も変わらないよ」と返した。