「シカオ・シブヤの芸術的なスイーツを一般の皆さまにも経験していただこうと思い、長い期間試行錯誤の末、ついに完成しました」

 悪魔さん…ではなく、渋谷シカオは陶酔した様子で自信満々にそう語った。
 わたしが会ったときの、おどおどした謙虚な姿は演技だったのだ。

「渋谷さんはフランスのパティスリーで2年間修業したあと独立し、シカオ・シブヤをオープン。世界的に有名な歌手レディーギャギャのバースデーには等身大のケーキをプレゼントするなど大胆なアピールで話題になりました」

 そうリポーターが説明をすると画面はレディーギャギャの等身大ケーキに変わった。

「あ、このケーキ、見たことある。テレビで話題になってましたね」
 わたしがそう言うと、
「悪趣味なケーキだな」と恵斗さんは呆れた様子で言った。

 うん、わたしもそう思う。
 ちっとも食欲をそそらないああいうケーキって、ホント、何のために作るんだろう。話題作りのため? 人を驚かせるため?
 スイーツって、食べる人を幸せな気分にさせるためにあるんじゃないのかな。
 恵斗さんの作るケーキみたいに。
 
 わたしがそう考えていると、恵斗さんはもう我慢できないという様子で、
「近所に店をオープンさせるのも、奇をてらったケーキを作るのも勝手だ。だが…」
 と言い、怒りで拳を震わせた。

「オレのケーキをパクるなんて汚ねぇぞ! 文句言いに行ってくる!」
 そう言って、店を出た恵斗さん。
「あっ、わたしも行きます!」わたしも慌ててあとに続く。