「桐生」



私はまっすぐに桐生の目を見据えた。



「私、桐生に言いたいことがある」



もう後悔したくない。


だから、伝えることを躊躇ったりしない。


もう迷わない。



「少し長くなるけど、聞いてほしい」



いつになく真剣な私に、桐生は驚いているようだった。

けど、すぐに頷いてくれた。







息を吸い、昔話から始める。



「二年の文化祭の時、私には目標がなくて進路も決まってなかった。いや、目標がないのは今も同じ」



桐生は覚えているだろうか。

一年以上も前のことだ。

しかも、ほんの少しのあいだにした会話。



「桐生はもう決まってた。自分が進みたい道、行きたい大学。そしてそのための努力をしてた」



私は、そんな短時間の会話で、自分の今までの人生を否定された気がした。

私と桐生でこんなに差があるんだと思い知らされた。





「私は、桐生みたいになりたいと思った。私にとって、桐生は憧れだった」



「……」







だんだん桐生の顔が赤くなっていく。

かく言う私も、顔が熱くなっているのが分かる。



「急に真剣な顔で話始めたと思ったら……よく、そんな恥ずかしいこと言えるな」

「黙って聞け」



聞いてるあんたより、話している私の方が何倍も恥ずかしいんだぞ。







私は咳払いをして、仕切り直す。



「検事になるために法学部行って、勉強するんだよね?」

「――うん」



静かに、力強く頷く。

私を見つめる目から、意思の強さが伝わってくる。

その目を見て、あの日言えなかった言葉がすんなりと出てきた。





「……応援してる」



そう言って、私は微笑んだ。