ずっと思い出さないようにしていたことを思い出してしまった。
私は今、桐生の家に向かって走っていた。
胸が苦しいのは、走っているから、という理由だけではないのだろう。
桐生の家が見えてきたところで、走るのをやめる。
少し息を整えてから行かないと――。
きっと、どんだけ必死になって来たんだと笑われる。
この期に及んで、私はまだ、プライドを守りたかった。
一旦立ち止まって、大きく深呼吸する。
目を閉じ、空気を吸って、吐く。
……よし。
意を決して、歩き出そうと顔を上げた時、こちらに向かって歩いてくる人がいることに気づいた。
「あ、きたきた」
「……桐生」
どうやら私のメッセージを見て、家を出てきたらしい。
「どうしたんだよ、いきなり」
「あ、……いや」
私は固まってしまった。
いざ、本人を前にすると言いたいことが言えなくなる。
――そもそも、桐生に言いたいことって何?
「ん?」
「…………」
桐生に伝えたいこと。
――今の私は、分かっている。
タイムリープしてから今日まで、ずっと考えていたのだ。
そして、思い出した。
私が、桐生に伝えたかったけれど、伝えられなかった言葉を。
伝えられず、後悔したことを。
いや――今でも後悔していることを。
「?……何かあったのか、く――」
「桐生」
私はまっすぐに桐生の目を見据えた。