彼女と最初に会ったのは、残暑を感じ始めた八月半ばのことである。

夏休みを全く感じさせない全員強制参加の補習前半が終わってから数日後。
誰が自ら学校に登校するというのだろうか。部活動にでも入っていれば来ているのかもしれないが、生憎僕はそういったところには加入していない。何もないのに登校などするわけがない。そう思っていた。
しかし机の上にはとうに返却期限の切れた本が二冊。このまま二学期にもちこしてしまえば返却催促の手紙がおくられてきかねない。いくらそういったことに寛容な高校の図書館だとしてもだ。
あまり目は付けられたくない。そう思い、重い腰を上げ、しばらく着なくていいとおもっていたカッターシャツに袖を通す。

高校につくと普段とは打って変わって人通りが少ないとおもっていたのだが、皆部活動をしにこんな日に登校しているようである。僕が思っていたよりずっと活動的だ。
しかし図書館は閑散としていた。人一人見当たらない。受験生も家で勉強しているようである。そのほうが賢明だ。
誰もいないなら、と先程まで家で妹がみていた子供向けアニメの主題歌を口ずさむ。
普段絶対にできないことをできるというのは少し快感が得られるようで、徐々にその声は大きくなっていく。一番日のあたらない端の席に座っていた少女に睨まれていたことにも気付かずに。