ないのだ、後ろにいたはずの弟の姿があとかたもなく消えている





さっきまで確かにここにいたはずと辺りを見渡すと、すぐにあの巨体が視界の端へと止まった





すぐに見つかったのはいいとして、いったいやつは何をしている?





大事な日だとあれほど言ったのに、人の話も聞かず、しかもかのご令嬢家族を目の前にして、何故あいつは木に登っているのだ?





さっきまで穏やかだった気持ちが一瞬にして消え去り、満の心は一瞬にして業火の炎と化した





「あんたぁぁぁ!!!!いったい何してるのよ!!!」





満の怒号でうっかり夢気分だった西城家の両親と、流水家御一行が同時に視線をそちらに向けた




視線を向けられた満は怒りで我を忘れているのか、その場にいる全員の注目を集めているということにも気にせず、大志が登っている木の根元まで駆け寄った





「大志!!お前というやつはちょっと目を離したすきにまた勝手に動いて…、今日は大人しくしているとさっき約束したばかりでしょう!?もう忘れたというの、この阿呆が!!」





「しかし姉上、猫が…」





「ねこぉー?」





大志の言葉で上を見上げると、そこには登ったのはいいが木から降りられなくなったのかぷるぷると体を震わせる子猫の姿が目に映った






「まぁ、可愛らしい子猫ちゃん!!」





満とほぼ同時に子猫の姿を視界に捉えた少女は小さな駆け足でお目当ての桜の木まで近づいた





今何が起きているのかまったく理解できない西城家の主は大志、満、そして麗しの少女、三人の姿を交互に見ることしかできないほど混乱していた